就労,  障害者雇用

障害のある人の質の高い就労生活を実現するための就労定着支援セミナーにオンラインで参加しました

⾼松⼤学発達科学部 山口明乙香研究室が令和5年度厚⽣労働省科学研究費「就労定着支援の質の向上に向けたマニュアルの開発のための研究(23GC1001)」の成果として開催したセミナーを受講しました。

ワークラボは、就労継続B型の事業所です。でも、一般就労に向けた支援をするので、就職後の定着にも当然興味があります。ちゃんと勉強しておかなければ。ということで、プログラム内容は以下の通りです。

第1部<基調講演>

職業リハビリテーションの理念を踏まえた就労定着支援の役割と機能

朝日 雅也氏<埼玉県立大学名誉教授>

第2部<報告>

事業所調査の結果からみる就労定着支援の現状の理解

山口 明乙香氏<高松大学>

第3部<パネルディスカッション>

就労定着支援への期待とこれから

<コーディネーター>

朝日 雅也氏<埼玉県立大学名誉教授>

<パネラー>

島村 聡氏<沖縄大学>

眞保 智子氏<法政大学>

酒井 大介氏<全国就労移行支援事業所連絡協議会>

酒井 京子氏<大阪市職業リハビリテーションセンター>

藤尾 健二氏<NPO法人全国就業支援ネットワーク>

まとめと今後の予定について

山口 明乙香氏<高松大学>

第1部は、職業リハビリテーションの説明から始まりました。そうそう、昔そんなこと習ったなと思いながら聞きました。もちろん、当時もJC(ジョブコーチ)支援やフォローアップの重要性は説かれていたけれど、自分の中で生活面の支援はどこか他がするものという意識があったようで、改めて新鮮に聞いた部分もありました。

今回のお話の中で、いいと思ったフレーズに「離職は就労支援の敗北ではない」というものがありました。一般にもそうですが、国の就労支援制度の設計は、長く働くことができれば報酬がプラスになるように、「離職は敗北」の位置づけです。これに違和感を持っていたので、一言でこのように表現されているのをよいと感じました。

また、本人を中心に据えた定着支援の話の中で、本人自身も重要なプレイヤー(支援者)と考えるべきというのも、そうだと思いました。

まとめでは、

「職場に慣れる」  「職場が慣れる」

「職場に定着する」  「職場が定着する」

「社会に参加する」  「社会が参加する」

と並べられていました。本人が変わることを期待しすぎてはいけないな、と素直に思いました。

第2部は調査研究の成果の発表でした。公的機関などの報告を元に現状を把握したうえで、後半に調査結果の紹介がありました。発表は聞き取りきれなかったので、資料を見ながらご紹介します。

既存データを元にした紹介の中では、就労系事業所退所後の利用者の流れが興味深かったです。令和4年度社会福祉施設等調査の結果から作成されたものです。就労移行の卒業生(26407名)は、半数以上(15094名)がちゃんと一般企業に就職しているようです。そして、就労B型を辞めた人(42356名)の中では、1割(4514名)が就職しているという内容でした。でも、元データの同じ令和4年社会福祉施設等調査では、B型の実利用者数を約40万人といっているので、利用者全体では、就職者が1%強というのは、あまり変わらないのですね。

山口先生が実施した調査結果からは、例えば、就労定着支援は年齢の若い人の利用が多く、精神障害者の比率が高く年々上がっているということが紹介されていました。若いと就労後の支援が必要になりやすいのだろうか。それとも、そもそも就職数が多いから?精神障害があると定着支援の必要性が高いのか、それとも就職数が多いのか。じっくりと結果を確認することができなかったので、ちょっと、これだけでは解釈しきれませんでした。

利用期間は、就職6か月を超え1年半以内が多い(80%)とか。その後徐々に(70%→61%)下がり、3年半以降はぐんと減っているそうです。まあ、そういう制度(就職半年後から3年間の支援期間)なので、そうでしょうね。就職後半年以内でも55%、3年半以降で24%とあるので、障害福祉サービスの就労定着支援のことではなく、一般的な就職後のサポートも含めているのでしょうか。だとすると、制度に忠実に(?)半年間何も支援していないという回答が25%もあることになる。逆に、そこが驚きでした。

就労定着支援の課題については、半数が「就労後6か月以内の人が利用できない」を上げています。後のパネルディスカッションでも話題になっていましたが、私自身不思議に思っていたので、広く共有された問題とわかって安心しました。もちろん、そもそも就労支援事業所の役割として、就職後のフォローアップも含まれると国がいう理由はわからないでもないですが、しっかり報酬の対象となっていないと、なおざりになりかねないと思うのです。

第3部は、パネルディスカッションでした。それぞれのパネリストの就労定着支援について思うところが紹介されたうえで、現状と課題、支援者に期待することが情報交換されました。

話題がいっぱいあったのですが、一番面白かったのは、制度設計した時の狙いと現状のギャップでした。仕事は企業、生活は就労定着支援事業所という棲み分けを想定したのに、支援の中心は仕事面になっていること。就職後半年のフォローアップの後に就労定着支援を入れることでテコ入れするはずが、半年の空白の後に入って「イマサラ感」があること。3年間の支援で安定し、ナカポツにつなぐことで安泰になるはずが、不安定なまま不十分な情報でつなぐ状況が起こっていること。確かにそうなるだろうな、と思ってしまいました。

支援者に期待することとして、ナチュラルサポートを形成し、就業面と生活面の両面にバランスよく支援できるコーディネーター的存在がいたら、ということでした。それって、ジョブコーチとナカポツの役割かなーと思ってしまいました。ナカポツのコーディネートの元、ジョブコーチがナチュラルサポートを形成できるよう、就労支援事業所の支援経過の情報を活用するという組み合わせの方がよいのでは。

とても勉強になったし、支援を考えるうえで参考になりました。また、これらの話題についていくための情報源も把握できてとてもよかったです。ありがとうございました。